母が冥途に行きかけた(4)

こんにちは。今日も楽しいマキオカです。

夕方5時、約束の時間にナースステーションに向かう。
母の主治医は、人のよさそうな中年の男だった。

母をできるだけ早く退院させたいこと、そのために自分でトイレに行けるようにして欲しいこと、万が一何かがあっても胃ろうや気管切開などの処置はしたくないことなどをお話する。
主治医は「そうですね。オムツは人間としての自尊心を傷つけますから」と言ってくれ、近くにいたナースに「この患者さん、ドレーンはやってないんだろ。今日からトイレに行くようにしてあげて」と言った。

その時のナースの反応、皆さんにもお見せしたかった。
間をおいて「・・はあ、わかりました」と渋々言い(わたしにはそう見えた)、ナース同士目を合わせる。
「えー…、メンドクサイ。誰がやると思ってんのよ。」という心の声が聞こえてきそう。
「何、簡単に言ってくれちゃってんの、このオッサン。そんなことをすることになったら、仕事が増えちゃうだろ」と言わんばかり。

そういえばお年寄りばかりいるこの階で、何故かトイレに付き添われている人を見たことがない。

この後、母は胃潰瘍があることが分かり、その治療のため退院時期が延びることになった。
わたしは母に「このまま入院が長くなったら大変だよ。頑張って早く退院するようにしなきゃホントに冥途に行くことになっちゃうよ。」とはっぱをかけた。

母は「自分の人生、今が正念場!」という意識が芽生えたらしく、頭の方はどんどんクリアになっていく。
さらにオムツを付けられ歩くこともできず、すっかり足の筋肉も衰えてしまったことを自覚し、こっそりと寝ながら足を上下するなどのリハビリを自分なりに開始した。

そんな母は、わたしが病院に見舞いに行くたびに、この病院の実態を事細かに伝えてくる。(いわゆる「チクる」ってやつですな)

「ここは本当に地獄だよ。前に寝ているあのおばあさん、オムツを変えてほしいって言うんだけど、看護婦さんは『忙しい』と言って全然来てあげないの。そうすると『看護婦さ~ん、オムツ変えて~』って、一時間ぐらいずっと言っているんだけど、無視。そのうちオムツを変える時間が来て、一斉に部屋の人全部のオムツを変えるんだけど、寝ている人を起こしてまで変えるくせに、そのおばあさんは一番後回しにされちゃうんだよ。ありゃ、いじめだよね」
「わたしもオムツが湿っていて氣持ちが悪いから変えてほしいっていうと『3回は大丈夫だから、オムツの中でしてください』って言われるの。でも湿っているから冷えちゃうし、本当に不愉快」
「親切な看護師さんもいて、その人にトイレに行くようにしたいからパンツ式のオムツに変えてもらったんだよ。そうしたら別の看護師が『そんな必要はない』と言って、そのパンツをむしり取るようにして脱がされた」
「看護婦さんを呼んでも、ちっとも来てくれない。時間を計ったら1時間半も待たされていた」
「普通の病院は、毎日じゃないにしても医者が回診するのに、ここはそれがない。医者はちっとも顔を出さない」

母は入院のベテランだ。
今まで病氣や怪我、事故等で10か所ほどの病院にお世話になっている。
その母をして「最低だ。地獄だ。」と言わしめるK病院、恐るべし。

母は看護師に頼るのを止め、秘かに我流のリハビリを開始するとともに、こっそりと看護師達の言動をチェックし始めたようだった。(母にとっては病院で世話してくれる人はすべて看護師と認識しているので、助手かもしれない)

「ここの看護師は本当に質が悪いね。言葉遣いも乱暴だし。看護師に『おばあさん、タバコ吸うの?』と聞かれたから『吸うよ。娘と孫にアイコスをもらったから、時々それも吸う』って言うと 『それ、持ってきてよ。ちょうだいよ』と言うんだよ」
「隣の病室で『家に帰りたい』って騒ぐ人がいるんだけど、その人に対して『うるせえ!静かにしろよ!!』ってすごい乱暴な言い方で脅すんだよ。そうするとその人は余計泣き叫ぶ。まるで暴力団みたいだよ」
「この前、ナースステーションのそばの部屋に移されたとき、夜中あんまりうるさいから文句を言ったんだよ。なんかパーティみたいなことをやってるから。そうしたら「この病院を選んで来たんだから、ここのやり方に従ってもらう」と言われたんだよ。年寄りの病棟で文句を言う人がいないからやりたい放題だ」

わたしは最初この話を聞いた時「病院でパーティって・・。そんなワケないだろ。まだらボケか?」と疑った。
でも、どうやらそうともいえないらしい。

確かに見舞いに行くと、隣の病室から叫び声が聞こえ、看護師の大きな声が聞こえてくる時がある。
見舞客のいなくなった老人ばかりの病棟は、夜になると看護師たちのやりたい放題という可能性はあると思う。
それって、ある意味そこらへんのホラーよりも怖い氣がする。

この病院の老人病棟が、一部男女同室なのにも驚かされた。

効率が優先なのか?
年寄りは性なんて関係ないのか?
オムツの脱ぎ着や清拭もある病室で、カーテンがあるとはいえ、いかがなものか。

手のかかるお年寄りを預かってもらっているのだから、家族からは苦情なんて出ないに違いない。
もちろん本人たちは固く口を閉ざしている。
看護師達に日常的にお世話になるから、黙らざるを得ないのだろう。

大金が病院に支払われているにもかかわらず、我慢を重ね、肩身の狭い思いをしているお年寄りの姿は、もしかしたら何年後かのわたしの姿だ。

今回わたしの書いたことが、一方的な物言いであることは承知している。
わたしや母の見聞きしてきたことは、医療の本質とは程遠いものであるのかもしれない。

「病院経営は大変なのだ」「医療現場は慢性的な人手不足で、医師も看護師も心身ともにすり減らしているのだ」「何も知らない人間が、勝手なことを言うな」などというお叱りのご意見があるのを承知の上で、今回この文章を書いている。

もちろん世間は良心的な病院が大多数なのだろう。
でも、こうした入院患者の現実があるのも事実だ。
これが救急指定され、「安心と思いやりの医療」がモットーの、社会的に認知された病院の実態なのだ。

「病院に行きさえすれば病が良くなり、最善の処置をしてもらえるはず」と信じ込んでいる現代人。
それは大いなる錯覚だ。
ある意味、現代医療に対する思い込みは信仰に近い。

「医療者は常に病人の体にとっていいことをしてくれるものだ」という考えは幻想であり、勘違いだ。
「医療者は常に病院の利益と自分の都合や立場にとっていいことをするものだ」というのが正解なのではないだろうか。

結局、母は病院でのリハビリを断り、3週間で無事退院できた。
だが、もしあのままオムツを外せず、筋肉が衰え、ボケ症状が出て、そのまま冥途に行くことになったとしたら、どうだろう。
不屈の根性で幸せを勝ち取り「わたしは幸せ」と言っていた母は、あの世で猛烈に悔しがり後悔したに違いない。

終わりよければすべてよし。
逆に言えば、終わり方に納得がいかなければ、冥途の旅路はつらいものになるはずだ。

「・・・やはり野垂れ死んだとしても、病院にはできる限り行かないからね。」とふんどし息子に呟いたわたしなのでした。

つづく

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いろんな人に現状を知ってほしい

マキおかんさん、こんにちは。

いや~お母様大変でしたね。よくぞご無事で帰ってこれました。
その後お体は大丈夫ですか?

マキおかんさん今回はいろいろ大変でしたね。お察しいたします。

不良病院の実態は恐ろしいものですな。
ワタスも今から25年くらい前に母親が搬送された救急病院がまさにマキおかんさんのお母様が入られた病院と似てましてあの時のことを思い出しました。
最近ではこれも母親が今の施設に入る前に短期ステイで入所した介護老人保健施設(老健)がそんな感じでした。

医療とか介護の現場って経営者がしっかりしていないと日頃の不満から所員による入所者への日常的ないじめが起こりやすいんですよね。
所内管理がいい加減でも入所者はどんどん入ってくるし、でも利益重視の経営ならそのしわ寄せが所員へ向かってくる。
でそのうち所員もモラル崩壊を起こして結局何もわからない入所者がその犠牲になってしまう。。

院内の総務とかに言っても何もしないところがほとんどです。


ワタス達にできることは、事前に入院する病院とか施設を決めておいて何かあったらそこへ入れてもらうような準備をしておくことだと思います

(不良病院でない病院を調べて準備すること大変だと思いますが。。)。


今回このような現状を書いてくださることにより多くの人に知っていただくことがとても大事だと思いました。

マキおかんさんのお母様とマキおかんさんに感謝したいと思います。ありがとうございました。

Re: いろんな人に現状を知ってほしい

マティックスさん、お久しぶりです。
コメントありがとうございます。

お陰で母はしっかり回復しました。
今更ながら不死鳥のような母です(笑)
マティックスさんのおっしゃる通り、医療施設の経営者の理念や考えは現場に恐ろしいほど反映されますね。
志を持って医療の世界に飛び込んだ方々も、日々の生活に疲れ果て、いじめに加担してしまう・・。
そういった方々も被害者なのかもしれません。
恐ろしい時代になったものだと思います。

自分の人生を守るためには、日頃からの情報収集や準備が必須だとの思いを強くしました。

実は今回このことを書いていいものか逡巡したのですが「こんな病院をのさばらせていいはずがない」との氣持ちがあり、書くことにしました。(わたし一人が騒いだところでどうなる問題でもないのですが)

ですので、マティックスさんのお言葉が、大変うれしく心強く感じました。
ありがとうございました。


これからもよろしくお願いいたします。
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Author:マキおかん
気が付いたらキャンプ場をやっていたマキおかんです。

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